2026.11月号/Vol.286
もう15年以上前の話です。あるシステムにログインする際のセキュリティ対策として、「指紋認証」を導入したらどうだろう? と思いつきました。当時、指紋認証という言葉は知っていましたが、細かい仕組みまではよくわかりません。かなり無謀でしたが、IDとパスワードのみのログインに不安を感じたお客様に対し、それがベストな方法だと考えていたのだと思います。私にいろいろなことを教えてくれた恩人に相談してみたところ、「そんなに難しくないから、自分でやってみたら」とのこと。当時は様々な要因から、実装するには至りませんでしたが、仕組みを知ることができました。
現在では、指紋認証や顔認証も一般的なものとなり、安心で便利な世の中になりました。買い物の支払いも、スマートフォンをかざすだけで済む時代です。
一方で、何かのサービスを利用しようとすると、追加の認証を求められることが増えました。決済は簡単になったのに、メールやスマホに届く認証番号の入力を求められることがあります。また、何かにログインすること自体も面倒な作業になり、もはや、本人なのにログインできないといったこともあります。便利な世の中になったはずなのに、不便なことも同じくらい増えているように思います。
ご存知のとおり、企業への不正アクセスやランサムウェアによる被害など、セキュリティに関するニュースが後を絶ちません。こうした被害を防ぐためには、これまで以上に安全性を考えなければならなくなり、手軽さがウリだった様々なサービスが、気が付くと面倒なものになってしまっています。
便利さを求めてきたはずなのに、その便利さを守るために、今度は面倒なことをしなければならない。少し皮肉な話ですが、利用者側も面倒なことを面倒だからと避けていては、大切なものを守れなくなります。新しい仕組みを理解することも、日々の確認を怠らないことも、決して楽なことではありません。人は、面倒なことをなかなか実行できないし、継続することはさらに難しいことです。
いつか、安全性と便利さをもっと自然に両立できる時代が来るのかもしれません。しかし、技術の進歩とともに新しい問題も生まれ、これから先がどうなっていくのか、簡単には予測できない時代だと感じます。
あのとき指紋認証の導入を考えたのは、難しい技術を試してみたかったからではなく、お客様に安心して、便利にシステムを使っていただきたい、という考えからでした。すべての問題を解決することは難しいかもしれません。それでも、できることを一つひとつ積み重ねていく。そして、何よりもお客様のことを第一に考え、とにかく、いま、できることをやる。かなりアナログ的な部分もありますが、そんな姿勢だけは、これからも変わらずに大切にしていきたいと思います。