RAP NEWS

2026.5月号/Vol.279

見えないおじぎ

今年から社会人になった知り合いが、研修で「語先後礼」という言葉を教わったそうです。「言葉とお辞儀は同時にしない」と、覚えたばかりのことを少し嬉しそうに話してくれました。昔、聞いたことがあるように思いますが、すっかり忘れていました。

「語先後礼」は、その言葉のとおり「ありがとうございました」と言ってから、お辞儀をする。「よろしくお願いいたします」と言ってから、頭を下げる。「まず言葉で相手に気持ちを伝えて、そのあとに礼を尽くす」ということです。相手にきちんと自分の気持ちを届けるために、目をしっかりと見てからお辞儀をすることが重要だとか。そう考えると、ほんの一呼吸にも相手へ思いを伝える大切な意味があるのだと感じました。

 相手へ思いを伝える、といえば以前、先輩たちがお客様と電話をしているとき、「よろしくお願いいたします」「申し訳ございませんでした」と言いながら、電話口で深く頭を下げている姿をよく見ました。電話ですから、相手には見えていませんが、それでも、先輩たちは自然に頭を下げていました。メールやチャットなどがない時代。その電話でお客様に誠意や感謝を伝える強い思いが頭を下げさせていたのかもしれません。相手に見せるための動作ではなく、感謝やお詫びの気持ちが姿勢となっていたのだと思います。

 今では、便利なツールがコミュニケーションを担っていて、あちらこちらで「自動化」も進んでいます。
直接会う機会が少なくなっている今だからこそ、相手へ思いを伝える「見えないお辞儀」の大切さを忘れずにいたいと思います。そして、お会いする機会をいただいた際には、「語先後礼」を意識し、自分の気持ちを丁寧に届けていきたいです。


5月となり、新しく社会に出た人たちは、名刺交換、言葉遣い、電話応対、仕事の進め方など、たくさんのことを学んでいることと思います。どれも大切なことですが、目に見えない「何か」に気づくこともまた、重要なことではないでしょうか。お客様のニーズや要望、考えを理解していくためには、目先のことや直接見えるものだけでは十分とはいえません。

さて、余談ですが、私がたまに行く定食屋さんでは、お客様が帰ったあとに、奥から「ありがとうございました」と声が聞こえてきます。すでにそのお客様には届いていないかもしれませんが、店内にいる私たちにはしっかりと伝わります。そのたびに、感謝の気持ちが感じられて、「また来てよかった」と思います。見えていない、聞こえていないかもしれない相手に対しても、気持ちを伝える。そうした小さな積み重ねが、その人らしさや、その会社らしさに表れるのかもしれません。そんな日々の小さなことからも学べることはたくさんあると思います。まだまだ勉強の日々が続きます。

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