2026.3月号/Vol.276
生成AIが実用化され、ビジネスはもちろん、私生活でも広く利用されるようになりました。就活生のエントリーシートは、生成AIを使って作成する学生が多く、似たような内容が増えていると言われています。自分の要望やヒントを与えれば、エンターキーひとつで瞬時に応えてくれるAI。しかし、学習データを前提とするAIは、ルールやパターンに沿って文章を生成するため、内容が似通ってしまうのは、ある意味当然のことかもしれません。
現状のAIが苦手だと言われていることのひとつが、「ゼロからイチを生み出す」ことです。ゼロからイチを創造する際に重要なのは「経験」だそうです。AIも膨大なデータを蓄積しており、それは一種の経験と言えます。でも、不完全なものや曖昧なもの、整理されていない感情のようなものは、データとしては扱われにくい面もあります。AIは、正確なデータを高速かつ効率的に分析することを得意としているからです。
一方、私たちは子どもの頃から、勉強や遊びを通してさまざまな経験を重ねてきました。楽しかったこと、苦しかったこと、つらかったこと、ほっとしたこと。そうした経験の積み重ねが、知識や対応力となっていきます。多くの人と関わり、「話す」ことで、さらに多くのことに気づけるようになります。その人の好みや悩み、大切にしている価値観を知ることができるようになり、仕事においてはその経験が非常に重要になると思います。
私自身も、仕事で迷ったときにはお客様のもとへ伺い、さまざまなお話をさせていただく中で答えを見つけてきました。会話の中でふと生まれる一言が、思いがけないヒントになります。まさに「ヒントはお客様」(ラップニュース112号)です。
話が少しそれましたが、もう一つ、生成AIにとって難しいことがあると思います。データを高速に処理するAIは、比較や分析が得意です。その結果、多数決の原理のような傾向が強まり、少数意見や異なる視点が小さく評価されたり、場合によっては見過ごされたりすることもあるのではないでしょうか。これまで数多くの新商品が開発されてきましたが、「社内で猛反対された」とか、「当初は世間に見向きもされなかった」というスタートを切った事例も少なくありません。
自分の仕事の中でゼロからイチを生み出すことは、決して簡単ではありません。時間も労力もかかりますので、思うようにうまくいかないことのほうが多いと思います。
いつも肯定的な答えを出してくるAIにあえて否定的な考えを聞いて参考にしたり、信頼できる人の超辛口アドバイスにも耳を傾けて、「小さな新商品開発」に挑戦していきたいものです。