RAP NEWS

2026.9月号/Vol.284

「バットを振ってきた」

夏の高校野球を観戦中、ここぞ、という場面でヒットを打った選手へ、解説者が言った言葉がとても印象に残りました。「数多くバットを振ってきた証ですね」

試合で私たちが見るのは、その一打です。しかし、その一打の前には、毎日の練習で何度も何度もバットを振ってきた時間があります。素振りをして、何度も打って、時には空振りをして。バットを振り続けてきたその積み重ねが、ここぞ、という場面での一打につながったのでしょう。


最近、この春から社会人になった若い人と話す機会がありました。営業の仕事に就き、電話でお客様にアプローチをし、少しずつアポイントも取れるようになってきたそうです。ただ、そこからなかなか契約には結びつかず、本人は結果が出ないことに少し焦っているようでした。
話を聞きながら、それは今、まさにバットを振っている最中なのではないかと思いました。

営業の電話を何本もかけるのは、決して楽しいことではありません。本当に結果がついてくるのか、時には不安にもなります。それでも、経験のないうちは、とにかく数を重ねるしかないのだと思います。
すぐに良い結果に結びつくとは限りません。でも、契約にならなかった商談も、チャンスで凡退してしまった打席も、やってみたからこそ分かることがあります。その経験が、次にバットを振るときに生きてくるのだと思います。

何度も繰り返すうちに、少しずつ、相手の反応がわかるようになり、自分なりのタイミングや感覚が身についていくのではないでしょうか。そして、いつか「ここだ」という場面が来たときに、自然にバットが出るのだと思います。
考えてみれば、これは社会人になったばかりの人だけの話でもありません。長く仕事をしていると、「これはうまくいくだろう」「これは難しいだろう」と、やる前からある程度判断できることが増えてきます。それは、これまで仕事をしてきたからこそ分かることでもあります。

その一方で、「これは難しい」「以前やって駄目だった」「たぶんうまくいかない」と、バットを振る前から球を見送ってしまうこともあるように思います。

振り返ってみれば、分からないからこそ、とにかくやってみたこともたくさんありました。知らない人に会い、分からないことを調べ、うまくいかなくてもまたやってみる。ずいぶん空振りもしてきたはずです。空振りをする回数は、以前より減ったかもしれません。でも、それと一緒に、バットを振る回数まで減ってはいないだろうか? 高校球児を見ながら、いつの間にか自分自身のことを考えはじめていました。

最近、ちゃんとバットを振っているだろうか。

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